2020年度、中日新聞の朝刊「健康」欄に毎週火曜日に「『あなた』のお医者さん」として50回にわたりコラムを連載いたしました。健やかな人生を送るヒントに少しでもなりましたら幸いです。
お読みいただきましてありがとうございました。
【「あなた」のお医者さん】 50 健康をつくるのは自分
【「あなた」のお医者さん】 49 「在宅」を支える訪問診療
【「あなた」のお医者さん】 48 認知症 優しく声かけを
【「あなた」のお医者さん】 47 カルシウム接種 意識を
【「あなた」のお医者さん】 46 体内時計整え不眠改善
【「あなた」のお医者さん】 45 ワクチン接種 準備入念
【「あなた」のお医者さん】 44 糖尿病の放置 合併症招く
【「あなた」のお医者さん】 43 脂質異常 まず生活改善
【「あなた」のお医者さん】 42 血圧 普段から測定
【「あなた」のお医者さん】 41 多剤服用に「手帳」有効
【「あなた」のお医者さん】 40 喘息症状 改善するには
【「あなた」のお医者さん】 39 アルコール依存 治療必要
【「あなた」のお医者さん】 38 喫煙による多様なリスク
【「あなた」のお医者さん】 37 風邪と思ったら安静第一
【「あなた」のお医者さん】 36 緩和ケア 考えておこう
【「あなた」のお医者さん】 35 熱やせき あれば休んで
【「あなた」のお医者さん】 34 高齢者は「フレイル」防げ
【「あなた」のお医者さん】 33 男女も生活習慣に注意
【「あなた」のお医者さん】 32 更年期のセルフケア
【「あなた」のお医者さん】 31 産後うつ 休養とケアを
【「あなた」のお医者さん】 30 妊娠と出産 男女で準備
【「あなた」のお医者さん】 29 10代の月経 悩み相談を
【「あなた」のお医者さん】 28 生活習慣 親子でチェック
【「あなた」のお医者さん】 27 人生の段階 意識し診察
【「あなた」のお医者さん】 26 生活密着型の医療を学ぶ
英国の大学院で熱帯医学と公衆衛生を学ぶ間は充実した日々でした。同級生の中には家庭医もいて友人になり、患者さんの全身や家族もまるごと診るという家庭医療の魅力に触れて帰国しました。
日本にも研修プログラムがあり、帰国後すぐに参加しました。その内容は以前大学で受けた感染症専門医の研修とは全く異なっていました。外来が中心で、健診や予防接種などの予防医療から、風邪や膀胱炎などの急性疾患、高血圧や脂質異常といった慢性疾患、脳梗塞の後遺症などのリハビリ、在宅医療まで全年齢が対象で、扱う範囲は多岐にわたります。学校や公民館で健康に関する講演もしました。科学的根拠に基づく知識を分野を超えて身につけるのは大変でしたが、生活に密着した医療を勉強することができました。
その後、クリニック開設と親の介護のため地元の愛知県に戻り、九年がたちました。クリニックでは学んできた家庭医療を実践。困っている内容や年齢、国籍を問わずいつもの診療の中で相談を受けます。生活に関わる医療だからこそ、私自身の結婚、妊娠、出産、子育て、介護などの経験も役立っています。患者さんの悩みに共感できますし、自分の経験から得た教訓をお伝えすることもあります。
次回以降、各年代で起きる病気や予防と対処についてお話しします。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/128792?rct=medical_news 会員限定記事 2020年10月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 25 家庭医が活躍する英国
アフリカのマラウイでの経験から、熱帯に多い病気を扱う熱帯医学や公衆衛生をもっと勉強したいと思いました。帰国後再び途上国に行こうとしたところ、妊娠が判明。教育に携わる夫が英国に留学することになり、同行しました。
英国は日本と同じ国民皆保険制度ですが、医療費が無料で、受診の仕組みも異なります。国民は受診したいGP(家庭医)をかかりつけ医として登録し、体調不良の時はまずGPを受診します。GPの診療範囲は広く、国民の健康問題の90%に対応できるというデータもあります。医師は大学卒業後に内科、外科、GPのいずれかで研修をしますが、GPに進む人は42%と多く人気の分野なのです。
妊婦の私は早速、登録をし、GPで妊婦健診を受けました。助産師がいて助言してくれるほか、妊娠以外の健康診断もできて安心でした。出産は総合病院の産婦人科でしました。医師の病棟と助産師の病棟があり、よりアットホームな助産師病棟で水中出産しました。何かあれば、隣の病棟から医師が来て対応できる体制になっていました。産後すぐ帰宅しますが、最初の一週間は毎日、助産師チームが過程を訪問し、子どもの診察や授乳方法を確認します。
英国に三年滞在。育児をしながら熱帯医学や公衆衛生を学び、帰国後、家庭医療の道に進みました。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/124811?rct=medical_news 会員限定記事 2020年10月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 24 最貧国で感じた無力
学生時代にフィリピンでボランティア活動をした時、「技術を身に付けていなければ現地に迷惑がかかる」と知りました。医師になってすぐ支援に行きたいと思っていましたが、大学で勉強しただけでは役に立ちません。一人前に近づきたくて日本で研修しました。
医師四年目の夏休み、恩師の紹介でアフリカのマラウイに行き、診療の手伝いをしました。一人当たり国民総所得(GNI)が360米ドル(2018年)と最貧国の一つで、医師は人口三万人に一人しかいません。熱が出たときに一番多い病気はマラリア。エイズの流行も始まっていました。しかし、診断のための検査機器や薬は十分になく、全く無力でした。
さらに四年後、再びマラウイに行く機会があり、国立病院の内科で働きました。病棟の患者さんの六割がエイズウィルス(HIV)感染者。エイズの治療薬ができたばかりで普及しておらず、入退院を繰り返して亡くなる方が大勢いました。草の根レベルで働き、現場から声を上げて状況を変えていきたい。この思いは今の診療所につながっています。
現地では意外にも高血圧や糖尿病の方が多くいました。食事や運動で健康を維持するという教育も必要で、総合的なケアが求められます。欧米から来る医師に総合診療医が多いのもうなずけました。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/121176?rct=medical_news 会員限定記事 2020年10月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 23 途上国支援の思いが原点
新型コロナウィルスで関心が高まっている感染症とこれまで紹介してきた家庭医療。この二つを専門にした理由をお伝えします。
医師を目指したきっかけは中学生の時に見たエチオピア難民のポスターでした。途上国での支援に興味を持った私は、医療に恵まれない場所でも診療ができるようになりたいと思いました。大学卒業後、当時珍しかった全診療科で研修できる病院を選んだのはそのためです。内科、外科、小児科、産婦人科などを回り、日本初の緩和ケア病棟でも研修し、患者さんを心理面で支えることを学びました。
途上国の死因で一番多いのが感染症です。当時の日本には感染症の診察・治療を研修できる病院はほとんどなかったのですが、幸い医師三年目から勤務した病院にあり、関心が深まりました。感染症は衛生状況や健康状態が悪ければかかりやすくなります。適切な治療で防いだり、早期に治したりできる一方、対応を誤ると改善に時間がかかって重症化し、感染が周囲に広がることも。とてもやりがいのある診療科でした。
感染症は「感染源」となる微生物、「宿主」である人、「感染経路」と三つの要素が関連し、複合的な対策を行うことが大事です。ここで学んだことは今でも大切な礎になっています。途上国での医療支援で経験したことは次回。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/117520?rct=medical_news 会員限定記事 2020年10月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 22 診察で意識する7要素
家庭医療の診察方法を若手に教える際、米国の医師が提案した概念「クリニカルハンド」(臨床の手)を使うことがあります。診察に必要な七要素を①手を開く、②握手する、③手のしわ、④指、⑤爪、⑥手のひら、⑦木を飛び移る文化的な猿ーと、手を使った行為や特定の部位にあてはめて覚えるのです。
①は、患者さんが診察室に入る時。欧米では両手を開き「ようこそ」と迎え、日本では「こんにちは」と会釈します。②は内容を理解したかどうか、部屋を出る患者を観察することを促します。欧米では握手をしますし、日本では表情や様子から推察します。
③は診察の目的を示します。診断し治療すること、受診理由に対する説明、健康増進のための情報提供という三つ。せきなら気管支喘息と診断し薬を処方、禁煙を助言するといった内容になります。
④は診察での五つのポイントを表します。良い関係を築く▷受診の動機を確認▷状態を理解し治療計画を説明▷今後起こりうることへの対処法の説明▷医師自身の体調の確認です。⑤は患者の病気への思いを意味し、⑥と⑦は手のひらを気に見立てて、社会で生きる患者さんの多面性を表します。
多様な症状と家庭状況が絡むような難しい場面でも手を見れば診察に漏れがないか確認でき、対応のヒントが見つかることもあります。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/113400?rct=medical_news 会員限定記事 2020年10月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 21 心理、社会的要因を考慮
7月14日付から、家庭医療で行われる診療の手法についてお話ししています。今回は「生物心理社会モデル(BPSモデル)」です。「病気の原因があるから病気になる」という直線的な因果関係ではなく、病気をBio(生物)、Psycho(心理)、Social(社会)的な要因を含むシステムの異常としてとらえる方法です。
例えば高血圧は、血管の中の細胞レベルで起こる変化と見ることもできますし、頭痛などの症状、将来への不安、食事内容の変化、仕事との折り合いの付け方など、細胞レベルから患者さん個人、家庭、地域、国の医療政策まで、各レベルで考えることができます。
原因となる異常を取り除くことで病気が治るのは現代医療の進歩の成果です。一方で、患者さん一人一人に、この原因と結果(病気)がすべて当てはまるわけではありません。個人にとっては、その原因と同じくらい大切な要因が関係していることがあります。
このBPSの要因を意識すると患者さんの価値観や希望に基づいた治療が選択でき、効果も上がります。例えば、がん治療では、心身の苦痛を和らげる緩和ケアが浸透し、終末期をどう迎えるかは個人や家族の意思が尊重されるようになってきました。BPSモデルは家庭医療だけではなく、どの医療の場面でも重要なのです。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/106312?rct=medical_news 会員限定記事 2020年10月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 20 「患者中心の医療」とは
病気になってから治療するまでには、症状が出る=>診察を受ける=>(必要に応じて検査)=>病名を診断される=>薬や手術などの治療を受ける、という経過をたどります。例えば「みぞおちが痛い」と受診して、検査で胃の粘膜が荒れていると「胃炎」と診断され、薬を飲んで治します。このように、ある診断に対し、効果が分かっている基本の治療が行われます。
しかし、その内容は、同じ症状の人全員に必ずしも共通ではありません。「みぞおちが痛い」と受診したある人は、身内に胃がんの人がいることが心配で、またある人はストレスが多いことが原因と心配しているかもしれません。この二人にはそれぞれ、胃がんかどうかの検査をすること、ストレス解消の方法を見つけることが、薬を飲む治療とともに大切です。
科学的な診断と治療に加え、患者さんが持つ事情を考慮して検査や治療の方針を立て、医師と患者が一緒に治療する技法を「患者中心の医療」と言います。1980年代にカナダの大学の家庭医療学講座で開発され、世界各国の医学教育に取り入れられており、治療効果の改善にも役立っています。
「患者中心」と言っても、患者さんの望み通りの医療をするわけではありません。診察でのコミュニケーションによって、よりよい治療をつくり上げるということです。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/106312?rct=medical_news 会員限定記事 2020年10月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 19 統合医療で生活の質向上
研修医のころ担当したがんの入院患者さんが、痛みや身の置きどころのないほどの倦怠感があり、症状緩和のため薬を飲んでいました。病気が進むにつれて症状が重くなり、患者さんの希望で鍼と音楽療法を始めたところ、症状が和らぎ「眠れるようになった」と喜ばれました。近代西洋医学と別の医療を組み合わせることで、症状を緩和でき、よりよい治療効果があることを知りました。
このように、近代西洋医学を補う形で症状を改善させる医療を補完・代替医療と呼びます。そして両者を組み合わせて行うのが統合医療です。補完・代替医療は、たくさん種類があり、うまく組み合わせることで患者さんの生活の質を向上させることができます。
一方、効果が確立している西洋医学を否定する治療は危険です。
以前、赤ちゃんが飲むビタミンKの代わりに違う治療を勧めた例が報じられました。ビタミンKが不足すると出血しやすいので生後全員に投与されます。その赤ちゃんはビタミンKが欠乏し、脳出血で亡くなってしまいました。
情報を見極め、安全で効果があるかを確認することが大事です。厚生労働省の「統合医療」情報発信サイトを見たり、主治医に相談したり、健康維持や病気の予防、症状緩和、生活の質の向上のためにうまく取り入れましょう。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/103032?rct=medical_news 会員限定記事 2020年10月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 18 住民と創る「へき地医療」
島国の日本には大小たくさんの離島があります。山間部など都市から距離があり、人口が少ない地域を「へき地」と呼びます。容易に病院を受診できず、医療の確保が難しい地域は、国の基準に当てはめると約千カ所あります。
へき地で発生する病気の八割は風邪、喘息、骨折、皮膚の病気、胃腸炎など日常的な病気です。一方で交通事故や農業・林業に従事中のけがでの救急対応や、重篤な病気への初期対応がきちんとできることが求められます。救急車やドクターヘリなどで大病院へ搬送しますが、それまでの対応が患者さんの回復に影響するからです。
へき地の診療所の多くは、医師一人体制で幅広い疾患に対応しています。一般的には、家庭医や総合診療医の研修を受けている若手や経験を積んだシニア世代の医師らが担っています。ほとんどの疾患に対処できれば、お年寄りから子どもまで安心して暮らせます。
高齢者が多いへき地では在宅医療も必要ですし、住民の健康問題にも関わります。例えば、塩辛い漬物を好んで食べる地域では、高血圧の人が多いことがあります。高血圧の一因となる塩を使わない漬物を一緒に作ったり、推奨したりして高血圧を減らした医師もいます。特徴やニーズは地域で異なるため、医師と住民が協力してへき地医療法人を作り上げていくのです。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/99498?rct=medical_news 会員限定記事 2020年10月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 17 物語に基づく医療
病気になると、これまでの生活が一変してしまうことがあります。例えば、脳梗塞で半身が不自由になった五十歳の男性は、これまでできたことができなくなり、自信を失いました。会社の部署は体調を考慮して変更され、人間関係や社会的立場も変わりました。
それまでの人生の流れの一貫性をなくしてしまい、患者さんは混乱して思い悩みます。治らない病気になると、失望したり、裏切られたような感覚に襲われたりし、それに耐えようとします。そんな時は、患者さんが語る言葉をよく聞いて病気をどう解釈しているか理解し、それを伝えます。患者さんが今の状況に意味を見いだし、新しい生き方のパターンを作る。対話はそのサポートになります。
患者さんは経験という「物語」の主人公になり、自分の病気をどのように考え、対応して、今後をどう形作るかを話します。一つの問題や経験が、いくつもの物語を生むこともあります。このような患者との対話の繰り返しは治療の重要な一部で、これを「物語に基づく医療(Narrative-Based Medicine)と呼びます。臨床研究の結果を基にした「根拠に基づく医療(Evidenced-Based Medicine)」が実践される一方で、NBMも重要な治療として注目されます。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/95455?rct=medical_news 会員限定記事 2020年10月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 16 目標を決めてリハビリ
普段から通う七十代男性が、転んだ際に腰を打って病院を受診し、打撲の診断で帰宅しました。ご家族から「痛みで動けず、座るのも歩くのも介助が必要で大変」と相談がありました。このように日常生活に支障が出た方にはリハビリが解決策の一つになります。
リハビリは脳梗塞や骨折した人が入院中に行うイメージがありますが、今は筋肉が衰えないよう手術後など早期に始め、入院期間を縮めて通院しながら行うことが増えています。男性にリハビリを勧めたところ、専門スタッフが自宅に来る訪問リハビリを利用して歩けるようになり、リハビリ施設へ歩いて通うまでに回復しました。
リハビリの目的には三段階あります。まずは、起き上がる・座る・立つ・歩くといった体の機能の向上、二つ目は食事・着替え・トイレ・入浴などができ、それが日常になること、三つ目は知人に会うなどの社会参加をすることです。
私は、病気の治療をしつつ、生活の様子を確認してどのくらい向上するか予測し、本人と家族の希望を聞いて、患者さんに合った目標を決めるようにしています。日常生活を送り続けること自体がトレーニングになるので、無理なく継続することが大事だと思います。
患者さんとご家族が自宅でよりよく過ごすには、リハビリ施設やスタッフとの連携も大切です。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/92193?rct=medical_news 会員限定記事 2020年10月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 15 よりよい生活のため連携
医療の目的は病気を早く治すことだけではありません。治らない病気を悪化させないための治療や後遺症を改善するリハビリがあります。そして生活の中で、病気とうまく付き合い、よりよく生きるためのサポートもあります。これは、患者さんが望む生き方を支えるための「寄り添う医療」です。
例えば、脳梗塞の後遺症で日常生活に支障がある方、高齢になって物忘れがある方には、治療ではなく生活のサポートが必要です。家に取り付ける手摺りといった生活に必要な福祉用具のレンタル、リハビリや食事・入浴のサービスなど、患者さん一人一人に合わせた支援の方策があります。
患者さんが望む生活に近づけるには、多職種での連携が不可欠だと思います。医療従事者である医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士らと、介護に関わるケアマネージャー、訪問ヘルパー、地域包括支援センター、デイサービスなどの施設、保健センターや市役所とも連携を取ります。
地元の愛知県蒲郡市には、医療と介護の関係者が共通で利用するインターネット上のシステムが備わり、対象の患者さんに関わるスタッフの間で情報を共有できるようになっています。医療と介護のスタッフが連携し、家族の協力も得ながら、患者さんの最適な状態を目指して協力します。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/88563 会員限定記事 2020年7月18日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 14 ワクチンで がんも予防
感染が原因で癌になる病気があります。B型肝炎ウィルスは肝がん、ヒトパピローマウィルス(HPV)は子宮頸がんの原因になります。感染が続くことで細胞がんに変化しますが、これらの感染予防にはワクチンがあります。B型肝炎はゼロ歳児、性行為で感染するHPVは小学6年〜高校1年の女子が定期接種の対象です。
20〜30代と妊娠する年代に多い子宮頸がんは「マザーキラー」と呼ばれ、毎年3,000人が亡くなっています。ワクチン接種が進む海外からは子宮頸がんの減少効果が報告されており、オーストラリアは今後約30年で発症がなくなると予測されています。
国内では、広範囲に痛みが出るなど接種後の特有の症状が報告されました。しかし、接種していない人にも同じ程度の頻度で同様の症状が現れることが報告され、現在、ワクチンとの因果関係は否定されています。そして、大半の自治体が対象者に案内を送っていないため、接種率は1%程度です。
当院では、関心はあっても不安な方には、病気の原因や予防方法、接種後のサポート体制を説明します。不安なまま接種しないこと、接種後に気になる症状があればいつでも相談できるようにすることが大事です。ちなみに接種時の痛みは「インフルエンザと同じくらい」と答えるお子さんが多いです。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/85488 会員限定記事 2020年7月10日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 13 周囲も守る予防接種
先週、病気の予防についてお伝えしました。今回はその中の「予防接種」についてです。
防ぐことのできる病気の一つは「はしか」。予防接種がなかった1950年ごろは毎年4,000〜9,000人が亡くなり、多くは1歳以下の子どもでした。きょうだいが幼いころに亡くなった経験がある年配の方もおられると思います。78年10月から法律に基づく定期接種が始まって、子ども全員に接種されるようになり、感染する人は減りました。世界保健機構(WHO)は、はしかの感染がなくなかった国を「排除状態」と認定しています。日本は基準を満たすのに時間がかかり、2015年にやっと認定されました。今、はしかで亡くなる人はほとんどいません。
国内で散発的に発生しているのは、海外で感染後に入国した人から感染する例です。昨年は世界的に流行したため、国内の感染者数も増えました。そのほとんどが予防接種をしていませんでした。
予防接種は自分を守るだけでなく、自分が感染しないことで周囲を守ります。はしかの定期接種は1歳と年長の2回。それ以上の年齢で感染したことがなく、母子手帳で2回の摂取歴が確認できなければ予防接種を受けましょう。日本プライマリ・ケア連合学会の「こどもとおとなのワクチンさいと」(同名で検索)をご参照ください。
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/80721 会員限定記事 2020年7月7日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 12 病気の予防を大事に
病気はかかりたくないもの。病気になると受診や入院に時間や費用がかかり、心理的にも負担になります。そこで今日は予防の方法と考え方を紹介します。
まず「スクリーニング」。ふるい分けという意味で、健康診断やがん検診で病気や病気のリスクを発見します。問診票を使うなどして、うつやアルコール問題の有無も調べます。次に「カウンセリング」。病気の原因となる行動がないか面接で確認します。アルコールの取り過ぎ、喫煙、肥満などがあれば、行動の変化を促します。
赤ちゃんのころから受けている「予防接種」は、感染すると重症化して命にかかわったり、後遺症が残ったりする病気をワクチンで防ぐのが目的。法律に基づき市町村などが行う定期接種のほか、希望者が費用を負担して受ける任意接種、そして大人に必要なワクチンもあります。自分の母子手帳の接種記録で未接種のワクチンがないか確認してみてください。最後に「予防的内服」。これは例えば、妊婦が胎児の病気を防ぐために葉酸を飲むといったことです。
病気にならないよう予防し、もし病気になっても早期発見・早期治療で自分への負担を最小限にして、病気の後はリハビリで合併症を防ぐ。予防は健康な体で長く過ごす秘訣です。まずは健診や予防接種歴の確認をしてみましょう。
(家庭医療・感染症専門医)
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/77106/ 会員限定記事 2020年6月24日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 11 かかりつけ医の選び方
みなさんが、かかりつけ医を選ぶ時に大切にしていることは何ですか。私が大切にしていることをご紹介します。
まず一つ目は、身近な存在であること。例えば、家からの移動時間が十分か二時間では、十分の方が近く、移動にかかる費用も安いでしょう。距離が近く、時間もかからない方が、定期的な受診にしても、体調が悪い時の受診にしても便利ですね。
二つ目は、予防から治療まで、年齢を問わず受診できること。子どもの受診の時に親も一緒に診察してもらえたり、高齢の親の受診に付き添いながら自分も診察を受けたりと、一回の受診で同時に診てもらえることは便利です。時間が節約でき、体にも精神的にも負担が少ないでしょう。
三つ目は、前回も触れましたが必要な時に、その分野の専門医へ紹介してもらえること。病気によって適切な検査や治療があり、かかりつけ医が抱え込まないことも大事です。高齢者は介護も必要になりますから、ケアマネジャーなどの多職種と連携してもらえるのも大切なことです。
四つ目は、前回お話しした継続性。長く付き合い、病気でも健康でも相談したいと思えることです。
五つ目は、病気について患者さんにきちんと説明してくれること。かかりつけ医を持っていない方は選ぶ時の参考人になさってください。
(家庭医療・感染症専門医)
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/73690/ 会員限定記事 2020年6月17日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 10 継続することの大切さ
愛知県蒲郡市で開業して10年目。小学生だった患者さんが成長し、お化粧して来院され驚くことも。長期間にわたり継続的に診療することは家庭医の特徴の一つです。
例えば高血圧など慢性疾患の患者さん。長く診る中でぜんそくや更年期障害といった新たな問題に対処したり、ワクチンや健診などの予防を勧めたり。必要に応じて各診療科の専門家に紹介します。
一方、総合病院から、がんや心筋梗塞の治療を終えた患者さんの紹介を受ける時もあります。総合病院は専門性が高く、ちょっとした体調の変化を感じたとき、気軽に受診するのが難しいからです。紹介を受ける際は、患者さんがどんな治療を受けたのか、正確な情報を引き継ぐようにします。専門家との連携を密にすることで、体調変化が病気の再発を疑う状態かどうかといった判断ができます。
特に持病がなくても、地域の子どもたちに対する予防接種、よくある病気やけがの診察、健診で見つかった異常を確かめるなど、成長を見守る診療もあります。いわゆる「かかりつけ医」として患者さんと関係を築いていきます。
普段は受診の必要がなくても、「何かあったら相談しよう」と問題解決のための相談先と思ってもらえるのはうれしく、やりがいを感じる部分でもあります。継続性を大切に診療を続けたいと思います。
(家庭医療・感染症専門医)
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/69986 会員限定記事 2020年6月11日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 9 地域のため院外でも活動
皆さんの地域には、病気や健康に関する「市民公開講座」などの催しがあると思います。テーマは健康のために日ごろ気を付けること、健康診断やがん検診の勧め、最新の医療法人の紹介などさまざま。治療も予防も皆さん一人一人が正確な情報を知ることが大事です。
その機会を提供し、健康維持と向上を目指すのが催しの狙いです。
医師が地域にできることの一つは、このように病気から出て地域の皆さんにお話しする活動です。公開講座のように大規模なもののほかに、地域の子育てサークルや学校、スポーツチーム、商工会、企業に出向くことも、地域の発展や安心のために活動できるのは、微力ですがうれしいことです。
お話をすること以外にも、例えば、糖尿病など特定の疾患が多い地域や予防接種率が低い地域など、その地域の特徴を捉えて活動することもあります。その理由を調べ、課題を特定し、問題解決に当たります。その場合、住民が個々に知識を得て実行するだけでなく、住民の活動と健康を支援する環境づくりが大切になります。
住民が自分の健康をコントロールして改善できるよになる過程を「ヘルスプロモーション」と呼びます。地域の実情に合わせた治療・予防・ヘルスプロモーションを地域の人たちと共同で実践することも医師の大切な役割なのです。
(家庭医療・感染症専門医)
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/66387 会員限定記事 2020年6月4日アクセス)
【「あなた」のお医者さん】 8 家族が健康に与える影響
かかりつけ医として診療していると、患者さんの家族が視野に入る時があります。それは、健康についての考え方や行動が家族との生活を通してつくられ、習慣になっていることが多いからです。
例えば高血圧の方。「うどんやラーメンの汁を全て飲む」「食卓にはしょうゆと塩が置いてあり、いつでも使える」という場合、汁は飲まず、食事は薄味にして食卓に調味料を置かないように助言します。本人だけでなく家族の血圧も下がり「遺伝と思っていたら食習慣が原因だった」と驚かれることも。運動や喫煙も同様で、家族の習慣が健康に大きく影響します。
家族のサポートも健康に過ごすために重要です。病院へ車で送り迎えをするなどの物理的なサポート、健康に関して助言する情報のサポート、気遣ったり共感したりする心理的サポートの3つに分けられます。特に心理的サポートは大きな影響があります。話を聞いてもらえ、必要とされていると感じることで健康意識が高まり、健康を維持するようになるのです。
家族のことを話したくない方や家族がおられない方には、患者さんの置かれている状況を考慮し、できる範囲のサポートを診療の中で行います。自分の健康への考え方や習慣に家族がどのように関わっているか、一度考えてみることをお勧めします。
(家庭医療・感染症専門医)
(引用元:https://www.chunichi.co.jp/article/63144 会員限定記事 2020年5月31日アクセス)