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メディカル・ツーリズム

  1. メディスン(医療)+ツーリズム(観光)=メディカル・ツーリズム
  2. 「メディカル・ツーリズム」の背景
  3. 心に留めておきたいこと
  4. 補足

1. メディスン(医療)+ツーリズム(観光)=メディカル・ツーリズム

メディカル・ツーリズムは、別名、メディカル・トラベル、ヘルス・ツーリズム、またはグローバル・ヘルスケアとも呼ばれており、医療サービスを受けるために国境を超えて自国以外に出かけていくことを言います。

旅行会社やマスコミによる造語だと言われています。

その考え自体は特に新しいものではなく、数千年前のギリシア人巡礼者が地中海地方をスパや温泉などの保養地を回ったことも一種のメディカル・ツーリズムだったと考えることが出来ます。

このような「保養」の考え方や習慣は日本でも「湯治」としてありましたし、世界各地で根付いていました。

しかし、最近のメディカル・ツーリズムは、以前は先進国でしか受けられなかった最先端医療が、途上国で安価に受けられるようになったところに大きな特徴があります。

2. 「メディカル・ツーリズム」の背景

例えば、

  • 近視矯正手術のLASIK
  • 白内障手術
  • 骨髄移植(白血病治療)
  • 冠動脈バイパス手術(狭心症、心筋梗塞の治療)
  • 股関節・膝関節置換術
  • 美容整形や歯列矯正などの治療

を、インド、タイ、マレーシア、フィリピン等のアジア諸国、キューバ、コロンビア、コスタリカなどの中南米諸国、イスラエルやサウジアラビアなどの中東諸国、更には南アフリカ共和国などで安価に受けられるのです。

この「メディカル・ツーリズム」が途上国で脚光を浴び始めたのは、1997年のアジア通貨危機以降です。

各国が産業復興に外貨獲得のために推し進めたことにあります。

英国や米国は、自国でも途上国出身の医療スタッフが多く(例:米国の全医師の20%、英国の全医師の40%がインド人)途上国出身のスタッフから医療を受けることに抵抗がないのに加え、英国のNHSは治療までの待ち時間が長かったり、米国では保険料が高くて保険に入れない人が多く、そういった人たちが安価で同等な治療を受けられることに魅力を感じて、「メディカル・ツーリズム」は急成長しました。

さらに、その質の良さと安価が人気を呼び、カナダ、ドバイ、オーストラリア、日本など、利用者は各国に広がっています。

3. 心に留めておきたいこと

タイは「メディカル・ツーリズム」を推進している国の一つです。

例えば、タイのバムルングラード病院は、病床554床。

ホテルのような内装で、病床年間100万人以上の患者さんを診療し、そのうち約40万人が国外から来ています。

約700人の看護師と約1,000人の医師が勤務し、スタッフは全員タイ人。

欧米でトレーニングを受けている人も多く、医師の2割にあたる200人以上が米国の医師免許を持っているそうです。

私は、タイに優秀な医師が多くいること、それ自体はとても素晴らしいことだと思います。

しかし、これらのスタッフは、ほんの一握りのタイの富裕層と外国人のために医療を提供していて、タイの一般国民に対して医療を提供しているわけではありません。

タイ全土を見ると、医療にアクセスできない人々がまだ数多くいて、日本など先進国が医療分野に援助を続けています。

国は、外貨獲得の手段として「メディカル・ツーリズム」を推奨していきましたが、貴重な医療人材や資源を限られた場所に集めてしまうことになっていて、その点では国全体の医療水準を押し下げているでしょう。

もちろん、他国へ行って戻らないブレイン・ドレイン(頭脳流出)よりは、将来的にはその国の医療を押し上げる力になる可能性はあります。

しかし、一旦、高給を得られる病院に勤務した医療スタッフが、田舎の病院やクリニックに転勤することは考えにくく、ますます国内での医療格差を生む要因になっています。

やはり、医療と教育は貧富の差は関係なく、誰でも享受できるものでなければならないと私は思います。

確かに「メディカル・ツーリズム」という産業は、途上国の産業振興に貢献し、外貨を獲得する良い手段かもしれません。

しかし、これによって途上国の中に更に医療格差を作ってしまうという現実をみると、先進国が途上国に作り出してしまった問題をここにも見ているようで、心が痛みます。

バムルングラード病院には、年間4万人の日本人が治療に訪れているそうです。

今後、さらに急成長すると予想されている「メディカル・ツーリズム」。

医療の資本主義の導入とその成長の裏で、その国の人々の医療がどのように影響を受けていくのか、利用する国の私たちがしっかりと見ていかなければなりません。

4. 補足

いくら交通手段や情報技術が発達し、人と情報のグローバル化が進んで便利な世の中になったとはいえ、医療という分野は、本来「自分の居住地で、最善かつ最適な治療を公正で安価に受けられる」ことが一番いいに決まっています。

しかし、英語圏、特に旧大英帝国の勢力下にあった地域で今広がりつつある「メディカル・ツーリズム」という医療形態は、より安価で高度な医療を求めて訪れてくる人々にとっても、そのような人々を受け入れる国々の人々にとっても、医療が遠ざかっているようにしか見えません。

すなわち、先進国と呼ばれている国々も、途上国と呼ばれている国々も、目の前にいる自分の国の人間に必要な医療を公正に提供できず、途上国の医者は、先進国からやって来る人々や自国の富裕層の人々を治療し、先進国の医者は、援助や国際協力の中で、途上国の貧困層の人々を治療する。

この状況、何かおかしくないでしょうか。

また、メディカル・ツーリズムを積極的に推進している国々の病院には株式上場をするところも出てきているそうです。

そうなると、単価の高い、利益の上がる治療に優先順位が置かれていくことも考えられますし、その過程で、患者の選別が当然視されていく危険性も出てくると思います。

そう考えると、このままの形ではどの社会にとっても望ましい医療の形とは言えないのではないでしょうか。

斉尾武郎氏が指摘しているように、それは、各国社会における医療制度の歪みの表出であり、世界中の医療資源の供給体制や経済格差などの社会的不平等が極限にまで達しつつある警告(注1)と考えるべきだと思います。

今後、医療従事者やメディカル・ツーリズムを推進する人々が“羊の皮を着たオオカミ(注2)”と呼ばれることのないよう時代の流れに飲まれないようにしなければいけません。

メディカル・ツーリズムをめぐって私たちが考えなければいけない課題は決して小さくありません。

にせ預言者たちに気をつけなさい。
彼らは羊のなりをしてやって来るが、うちは貪欲なオオカミです。
(新約聖書 マタイの福音書 第7章15節)

参考文献

更に詳しく知りたい方は、次のウェブサイトをご参考にしてください。

各国のメディカル・ツーリズムの現状を紹介した動画